モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード36
立花が最中のパッケージを開けた。
「でも雪子先輩が迷子になるのって通常運転ですよ~?」
「それはそうなんだけどさ……」
今まで私と話していた希幸は、立花と他愛のない会話で盛り上がっている。この辺りで買える美味しいお菓子の話。
本当になんということのない女子高生の会話。どこでもあるような、特別でもなんでもない光景。
「……ふふっ」
それでも、私にとっては何よりも尊いものだということを目の前の二人は理解できないのだろう。
幼いころの私が何よりも欲しかったもので、ずっと望んでいたものだったということを、絶対に理解できない。
当たり前にあるものなどないし、すべての者が必ずしも手に入れられるものだとも限らない。みんながみんなできて当たり前のこともないし、できないのが当たり前なこともあるとなかなかわからないのだ。
最初から持っていた者にとってはあるのが当たり前でも、最初から持っていない者にとっては喉から手が出るほど欲しくてたまらないものなのだ。持てる者は失ってからでなければその尊さに気づかない。失って初めてその価値に気づく。
「楽しそうですね、雪子さん」
「何か楽しいことでもあったんですか?」
立花と希幸はきょとんと首を傾げる。
思い返せば、こんな気安いやり取りも憧れていたこともあった。
「立花と希幸が楽しそうにしてるから。私も釣られただけよ」
「はい?」
「なんですかそれ?」
二人そろって同じ表情になる。仲の良さの証左だ。
「なんでもないわ」
仲良きことは美しいもの。
特に理由もないけれど、希幸が牽制するように少しだけ怖そうな顔を作ろうとする。
「本当よ?」
希幸は立花が好きだから。
だから立花が誰かと親しそうにすると面白くなさそうな態度になることもある。三島さんとも最初は少しぶつかったのかもしれない。恋する乙女は大抵そんなもの。
恋心に関する気持ちは私も似た要素はあるから、むしろそんな希幸が微笑ましくて気に入っている。まあ、私の場合は相手が相手だけど。
なんにせよ、恋をするとどうしても嫉妬深く狭量になるのは致し方ない。
「希幸は本当に立花が好きなのね」
「当然です! 立花サマのことを一番好きなのはわたくしですっ!」
ムキになっちゃって。
こんな風に学院内でわちゃわちゃしているうちは平和なもの。世間に出たらこんな呑気になどしてはいられないだろう。ただでさえ私が留年しているのだし。
「……」
本当に、先のことを考えると不安ばかりが押し寄せてくる。
私はみんなと違って将来に不安しかないから。おそらく生徒会で一番ポンコツなのは私なのだから。
三島さんは孤立するのが怖いように見えるけれど、あの子は大丈夫だろうと思う。一見コミュニケーションに難があるような印象だけど、根は違うだろう。根っからのコミュ障とは違うタイプだ。根深いタイプはあんなものではない。
「ひとりで立てるようにならないと」
私は誰にも聞こえない小さな声で自分に言い聞かせた。
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