モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード35
「ミサキちゃん今頃どうしてるかなあ」
希幸の何気ない言葉につられるかのように、あたしもミサキちゃんのことを思い浮かべた。
ミサキちゃんはいい子。
あたしも最初に会ったときからそう感じていた。運動部でもないのに上下関係はしっかりしているし、あまりグイグイ前に出る感じじゃなかった。逆にもっとはっきり主張してもいいのにとすら思っている。
結構言うことは言うから、ただ大人しいだけの子じゃないとは思うけど。腹に一物?とは違うか。
コーヒーを飲みながらそんなことを考えていたら冬也と話したことが思い起こされる。
再び入院することになった冬也が電話をかけてきたときのことだったっけ。
「――そういえばさ」
「うん?」
「病院で姉ちゃんと同じ制服着た女子を見かけたよ」
「へぇ? どんな子だった? 背が低い子なら雪子さんかも」
「真白さんじゃなかった」
雪子さんのことはあたしがたまに見せる写真から冬也も知っていた。だから聞くまでもなく見ればわかるだろう。
「じゃあミサキちゃんかな? 他にうちの学校で病院に縁がある子はちょっと知らないし……」
全校生徒を把握しているわけじゃないけど、こういう時って知っている子の話になってしまう。希幸もあたしと一緒に下校していたし、チョコは生徒会室に残ったはずだ。
「スカートが長めで、髪は腰あたりまであった」
「じゃあきっとミサキちゃんだ」
その特徴の生徒はあたしが知っている範囲ではミサキちゃんしかいない。
冬也もミサキちゃんのこと知ってるんだ。なんだか不思議な気分になる。
「話はしたの? ミサキちゃんいい子だから、冬也にも優しいと思うよ」
「……そう、なんだ」
「ん? 歯切れ悪くない?」
なんとなくだけど、冬也とミサキちゃんは相性が良さそうな気がしていたんだけど。お互い年上の相手に慣れている感じで。
「俺、あの人なんだか苦手な気がする」
「えっ?」
冬也が最初からここまで苦手意識を露わにするのは初めてかもしれない。しかも相手がミサキちゃん。
「なんで?」
気づいたら尋ねていた。
あたしから見ればいい後輩なのに、冬也からは別の彼女が見えているのかと気になったから。
「……たぶん、同族嫌悪」
冬也がぽつりと答えた。
特に嫌悪という感情はなさそうだったけど、強いて言うならこの言葉が適切といった調子だった。
「同族?」
冬也とミサキちゃんってそこまで似ているのだろうか。
たしかに二人とも、大人しいいい子だ。あまり我儘も言わないし、空気を読んで周りに配慮できる子だ。特に嫌う要素はないと思うのに。
「具体的にどう、ってわけじゃないんだ。ただ俺と似てると感じた」
「……」
説明している冬也自身もよくわからないというのが本音のようだった。わかる人にしかわからないものなのかもしれない。
「いや……やっぱりいいや。じゃ、そろそろ消灯だから」
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみ」
そう言って、どちらともなく電話を切った。
その後すぐにあたしもお風呂の掃除がまだだったことを思い出して慌てて浴室に向かったのだった。
「いいですよね〜!」
希幸の声であたしは我に返った。
しばらくぼんやりしていたあたしをよそに、希幸と雪子さんは二人で盛り上がっていたようだ。
「北国は美味しいものが多いしね」
「そうらしいですよね。海の幸とか多そうで。お土産もカワイイパッケージのやつ見たことあって――」
二人の話は涼しそうで羨ましいという話から、食べ物の話へとシフトしていく。希幸は見た目がお洒落でカワイイスイーツに目がないし、雪子さんは外見に似合わず実はよく食べる人だから自然と更に盛り上がっている。昼食もなかなか食べてるんだよね、雪子さんって。
「今度北海道に行ってたら買ってきてあげる」
「やったぁ!」
「いやいや、最初から迷子になるのを前提にしないでください」
大抵迷子になってる雪子さんが言うと冗談に聞こえない。しかもあまり表情が変わる人じゃないから謎の大物感すらある。
雪子さんも積極的な人ではないけど大人しい人ではある。
ミサキちゃんがもし雪子さんみたいなタイプだったおちゃうらあたしもやりにくかっただろうな。
あたしはそんなことを考えながら、もなかのパッケージを開けた。
Copyright 2023 rizu_souya All rights reserved.