モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード34

 ミーンミンミンミン……ミーンミンミーン……
 今日も窓の向こう側ではひっきりなしにセミが鳴いている。ただでさえ暑いったらないのに、この鳴き声もセットになるとますます暑苦しい。
「あーもう! 暑いしうるさいし!」
 わたしは言っても仕方のない不満を吐き出した。
 夏休みに入ってからずっと、生徒会室で書類の処理に追われている。
 生徒会に入る前はそこまで作業は多くないと思っていたのに、案外やるべきことは多かった。
「だね。暑いとどうも殺伐するよね」
 立花サマはシャツの襟元をパタパタ動かして風を送る。
 その割にはそこまでイヤそうに見えない。
「ちょっと休憩しよっか」
 その提案にわたしも真白先輩も頷いた。


 夏らしく氷の浮いたアイスティーに、今日のお茶請けの最中が配られた。真白先輩が若干嬉しそうな顔をしている。
「あーあ、今日も暑くて溶けそうです」
「はは……真夏だからね。暑いのは当たり前だよ」
「それはそうですけど。ミサキちゃんいいなあ。今頃涼しいところに行ってるんだし」
 今日から数日ミサキちゃんは欠席。帰省って言っていたから、きっとおばあちゃんちに行っているんだろう。
「わたしは東北には行ったことがないんですけど、北国なら涼しいですよねきっと」
「まあ、それが北ってことだろうしね」
 立花さまはカップを口元に運びながら頷いた。真白先輩は黙々と最中を食べている。
「わたしはしばらくお祖母ちゃんとは会ってないからなあ……立花サマはご家族が試合に来たりしませんか?」
 あのシスコン弟以外で。
 わたしは心の中でその一言を加えた。
「うちは来ないかなぁ。冬也だけ」
「お祖母ちゃんとかは喜ぶんじゃないですか?」
「祖父母とは縁遠いから……」
 何か地雷でも踏んでしまったかもしれない。
 わたしは慌てて手をブンブン振った。
「いえ! 別にわたし、立花サマのプレイべートを根掘り葉掘りする気はなくて!」
「わかってるよ」
 フォローするように立花サマは微笑む。ホッとして立花サマのことをますます好きだと思った。
「ミサキちゃん、細かいところで気を回してくれるからあたしもやりやすくてさ。予定より捗ってるんだよね」
「そうなんですか?」
 作業はほとんど分担して進めているから、どのくらい進んでいるかなんてわからなかった。まあ、わたしがやっていたのは書類の細かいチェックやら、これまでの記録を清書すること。字が上手くないながら頑張ったつもり。
「優先順に並べてあるとどこからやればいいかって考えなくていいし、目の前のことをやっておけば済むからさ。あまり目立たないけどすごく助かるんだよね」
「前より生徒会室も整理整頓されているものね」
 最中を食べ終えた雪子先輩も話に加わった。
「私も三島さんがいて助かるわ」
「雪子先輩が誰かを褒めるって珍しくないですか?」
「そうかしら?」
 わたしはあまり雪子先輩と話さないから、てっきりあまり好かれていないんだと思っていた。実際雪子先輩は大抵無表情だし、何を考えているかよくわからないこともある。わかりにくいから、ちょっと苦手だった。
 そんな雪子先輩がミサキちゃんのことをよく思っているとは。
 でも、ちょっと前に雪子先輩が倒れたときに病院まで付き添ったのはミサキちゃんだった。そこから親しくなったのかもしれない。
「三島さんはいい子だと思から」
「それは、たしかにそうですね」
 わたしも同感。
 ただ控えめすぎてたまに卑屈ですらあるところはどうなんだろうと思うけど。先輩たちに褒められているんだから、何も卑屈になる必要なんてないのに。もっと自信を持てばいいのにって、わたしは思うんだけど。
 でもそれがミサキちゃんのいいところなのかもしれない。
「ミサキちゃん今頃どうしてるかなあ」
 わたしはアイスティーの入ったコップを手に窓の外に目をやった。
 今日は快晴。相変わらず雲一つない青空が広がっている。
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