モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード14

 ミサキの考えていることは、あたしにはよくわかる。
 あたしはミサキ自身だから。自分のことはよくわかる。当然のことだ。

 ふぅん、よかったじゃない。
 ミサキはみんなに誕生日を祝ってもらった。「おめでとう」の言葉、他愛のないプレゼント、それらを貰えて心が弾んでる。
 そうだね、あんたは喜ぶだろうね。
 プレゼント、モノが欲しいならわざわざ人からもらわなくても自分で買えば済む。それでも誕生日にプレゼントを渡すのはそこに気持ちがこもっているから。相手が喜ぶところを想像して、苦心しつつも選んでくれるから嬉しいんだ。
 決してモノそのものが嬉しいんじゃない。

 でも、ミサキは、あたしはわがままだ。

 愛して欲しい?
 肯定して欲しい?
 
 うん、すごく高望み。
 それが当たり前だとミサキは思ってる。まるで人間は例外なく愛されて肯定されるのが当たり前みたいに。
 それってすごく贅沢だし、すごく欲張りだと思うよ。
 少なくとも、あたしたちが望むものじゃないんじゃない?
 少なくともあたしはそのことを十分にわかってる。
 ミサキとは違う。

 ほら、やっぱりミサキは今日もここに迷い込んできた。みんなのココロが集まるここに。

「イイ顔になったじゃん」
 最近のミサキは本当にイイ顔になったと思う。自分に正直になって、嫌なところもすべてさらけ出した顔。そんな顔するミサキは結構好きだ。
「スカッとするでしょ。自分に正直になると」
 だからあたしはいつも自分に正直だ。ミサキみたいに自分を偽ったりしない。
「あの時だってそうだった」
 ミサキは思い出せないだろう。だからあたしが覚えているんだ。あたしのところで保管してるんだ。
 その記録に自由に触れられるのはあたしの特権。とりあえずこの場この時では。
「思い出してみなよ」



 ミサキは遠い顔をしてあの時の記録に触れている。たまに苦しそうに表情をゆがめる。そう、あたしの気持ちはミサキの気持ち。ミサキの記憶はあたしの記憶。
 どうやらミサキはあいつのことを思い出したらしい。
 
『リリカ』

 あたしたちとは他人じゃない、むしろすごく近い相手。なのに待遇に天と地ほどの差がある。
 リリカはいつも女の子たちのリーダー格で、いつもおしゃれで清潔な服を着ていた。食事だってあたしみたいなジャンクばかりじゃない。ちゃんとバランスを考えたものを三食。住んでるのは安アパートじゃなくて、都内の一軒家。自分の部屋ももちろんある。
 すべてパパが言っていたことだ。
 なんていう差だろう。
 あたしたちとは大違い。
「ママが言ってたわ! カエルの子はカエルだって!」
 この子は意味をわかって言っているのか。相手にするだけくだらなくて、あたしはそっぽを向く。つきあってられない。なんて呑気なお嬢様だろう。
「あんただって、ろくな大人にならないんだから!」
 母親から吹き込まれたことを理解せずにそのまま繰り返すリリカ。同調する同級生。我関せずの男子たち。
 くだらない。
 本当にくだらない。
 でも、こんな子供らしい屈託のないと言われる子たちが一番愛される、愛されてる。
 無知で愚かだからこそ、大人たちは守らなければと思うのだろう。
「こっちは我慢ばかり」
 あたしはいつも思っていることをつぶやく。
 なんで?
 なんであたしが?
 

「私ばっかり!」


 どうやらミサキも過去の中から戻ってきたらしい。あたしは偽りなき本音をぶつける。
「我慢ばっかりイヤになるよ」
 本当に、イヤになる。
 我慢を続けた結果、ついに身体もなくなったんだから。
「……」
 それでもあたしは、あたしだけはミサキのことを助けていてやりたいと思う。誰も助けてくれない私には、あたししか頼れる相手がいないんだから。
「イイ子なんてやめちゃえ」
 そうすれば楽になれる。今のまま、家畜同然に飼われて生きていくのが本当に『幸せ』なんだろうか。
 もっと自由に好きに生きたっていいはずだ。
「お母さんみたいに」
 そう、自由といえばお母さんだった。
 あの人はその言葉が生きているような人で、自由どころか自分勝手な面も多々あった。
 たしかにあたしに優しかったけど、それは本当に私のためだったのかは未だに疑問が残る。
 そういう人だった、そう思わせるような人だった。
 あの日も急に仕事が入ったとかで、忙しいらしいパパを呼びつけてた。別に来てくれるとは思っていなかったけど、鍵もなかったから暇を持て余してた。
「マサキは?」
 第一声がお母さんの名前。この時点であたしの存在ってその程度だとわかった。
「せっかくの休みなのに……手のかかる奴だな」
 それはお母さんに言ったの? 私に言ったの?
 いつもそう言っていたし、あたしたちの前ではそれが口癖みたいになってたけど、本音ではあたしたちのことをどう思ってたの?


「子供ってなんなんだろうね」
 別にミサキに答えを求めてるわけじゃない。ただ気づいたら喋っていた。
「相手の気を引く小道具? ……冗談じゃない」
 ホント、冗談じゃない。
「いちいち巻き込まれる方はたまったもんじゃないんだよ! それで結局破――」
「消えて」
 あたしのココロが暴走して一気にしゃべってしまいそうになったところで、ミサキが一言。
 今の主人であるミサキがそう言ってしまえば、あたしはその通りにするしかない。きっとミサキはあたしのことなんてほっといて現実に戻るのだろう。あの、『おかあさん』がいる場所に。

 でもね、ミサキ。

 きっと今のこの世であんたの味方はあたしだけなんだ。
 甘い言葉で近づいてくる奴がいたとしても、そいつにはきっと裏がある。世の中ってそういうものじゃない。わかってるでしょ。
 特に一番欲しい言葉を言ってくる奴とか要注意。
 なんだかんだ言っても、現在の世界で一番ミサキのことを思ってるのはきっと、あたしだけだと思うんだよ。
 大キライだけど、あたしはあんたの味方なんだから。
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