モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード3

 私にはどうしても叶えたい願いがある。現実では絶対に叶わない想いを伝えたい、そして報われたいという願い。
 幼いころからい抱き続けていたその願いは、願ってはいけないものであるほど、大きくなってしまうものなのだと最近になって知った。
 私の中で次第に大きくなっていく私の願い、変わらない現実。みんなどこかに願いを抱き、叶わない現実と折り合いをつけて生きている。みんなそうなんだ。
 でも、私はそれは嫌だった。
 一度芽生えた恋心は、簡単に消えはしないのだから。
 だから、その願いが叶うかもしれないという万に一つの可能性が提示されたのならば、しがみつくのは当然だった。

『ひとつだけ願いが叶うなら、貴方は何を願いますか』

 決まってる、答えなんて。
 私はすぐに自分の望みを言った。

『―――』

 それからずっと、私は生徒会であのひとを待っている。私を救ってくれた、巫女のようなあのひとを。



 私は確かに学校に向かっていたはずだった。それでまっすぐに学校にたどり着けることはほぼないといっていい。いつもはお兄ちゃんが通学のついでに送ってくれるけれど、今日はタイムングが合わなくて、私一人で登校していた。
 17歳にもなったのだし、別に送迎なしでも大丈夫だろうと高をくくっていたら、案の定迷ったらしい。
 迷ったといっても、道に迷ったという生易しいタイプの『迷子」ではなかった。
 一瞬のうちに無数の歯車が浮いた異空間に迷い込んでいた。辺り一面薄暗く、足場がはっきりしない。

まるで宇宙空間に浮いているような感覚。見通しの悪い空間に歯車が浮いている。これだけははっきりと認識できる。
「ここは……夢?」
 私はそっと手を伸ばしてみる。目の前に見えるはずの歯車に触れられない。やっぱり幻らしい。歯車は一つ一つの形も大きさも同じものは見当たらない。どれもがオンリーワンらしい。
「ここは夢の中?」
 薄暗い空間。不思議な場所だ。まるで何も見えない暗闇にいるのに、むしろ安心する。まるで……そう、何かとても暖かいものに守られているみたいに。
 しばらくここにいてもいいかもしれない。私はぼんやりとそう思った。
 その時、ガタガタと聞き覚えのある音が響いた。
「あ」
 これは夢から現実に戻るための合図だ。私にはわかる。
 ここはとても心地いい場所だけど、ずっといてはいけないんだって心のどこかでわかってるんだ。
「起きなきゃ」
 ガタガタという音が大きくなっていく。
 そして私は目を覚ます。
「ここは……?」
 ああ、やっぱり。
 物音に混ざって、クラクションの音が鳴り響いている。きっとどこかの高速道路なのだろう。いつものことだ。
「でも、いいや。もう少し……」
 2年生になってからも、私の激しい眠気は治るわけでもなく、むしろひどくなっている。このままずっと眠り続けたらどうなるんだろう。
 心地よい夢の世界で、ずっと生暖かい世界の中で自分を守っていればいいのだろうか。
 そこまで考えて、結局私は眠くなって。
「もう少し……ねる……」
 私は再び意識を手放した。





「……な」
「――!」
「!」
「――!」
「――」
「いたー!」
 なにやら騒がしい声がして、自然と目が覚めた。
 案の定、いつも通り、どこかに迷い込んでいたらしい。辺りを見回しても見覚えのあるものなんてありはしない。まあ、私にとってはよくあることだから今更気にしたりはしないけど。
「ここはどこ?」
 運送業者らしい人がいたから聞いてみる。
「……」
 目の前の二人組はしばらく黙って、ためらいがちに言った。
「北海道」
「……」
 なるほど。今回は北上したわけか。ちょうど今頃は何かの魚が旬じゃなかったか。
 いやいや、そんなことを考えてる場合じゃない。
「とりあえず出すもの出して」
 私はごく当然の要求として手を差し出す。
「……じょーちゃん」
「おじょーちゃん、何この手?」
 目の前の二人はびっくりしたように黙り込んだ。最後まで言わないとわからないらしい。
「だから、慰謝料よ」
 だって私は生徒会会計。この腕を買われてスカウトされたんだから。このくらいは働かなきゃ。会長にも合わせる顔がないというもの。
「……」
「……」
 業者の二人は黙ってあ顔を見合わせて、ぼそぼそと相談したのち、どこかへ電話をかけた。




 やっと学校に到着。もう放課後だ。
 教室に行っても授業はとうに終わっているころだし、生徒会室に直行した。ドアを開けると、立花が私のことを待ちわびたかのようなホッとした声を出した。
「雪子さん!」
「遅くなったわ」
 現金とお土産の魚で重くなった袋を引きずりつつ、生徒会室に入る。ちょっと魚くさい。
「今回も大量ですね」
 立花がちょっと困惑したようにこっちを見る。希幸は相変わらず、カード占いに夢中だ。カードをめくるのに真剣になっているところは恋する乙女。彼女の素直なところは純粋に尊敬する。ある意味では私と希幸は似た者同士だから。
「あら」
 と、その時、見知らぬ子がこっちをじっと見ているのに気づいた。リボンの色が白だから1年生。ああ、きっとこの子が噂の、
「貴女が新しく入った子?」
「はい、三島ミサキです」
 遠慮がちではあるけれど、私の運んできた荷物に驚いているらしい。こんな反応をされるのも久しぶりだ。
「そう。ウチは変なのが多いけど……」
 立花は比較的まともだけど、チョコも希幸もあまり優等生とはいえないだろう。もちろん私も。
 問題児ばかりのこの生徒会にいるという時点で、この子もかなりの物好きだ。
「もらいものだけど、食べる?」
 せめてもの親愛の証に、戦利品を勧めてみる。なかなか鮮度がよく、ビチビチと魚が跳ねた。
「今回はどこまで?」
 若干引いているミサキという子が困っていると思ったのか、立花が場を持たせようと言葉を添える。生徒会は我の強い連中ばかりだから、彼女のフォローがないと立ち行かない。さすがは副会長だ。
 せっかくの言葉を無駄にしたくないし、今日の出来事を簡単に説明した。
 途中でチョコが何やら言っているのが聞こえたけれど、かつてのクラスメイトとはいえ話すことは特にない。向こうは気さくに話しかけてくるけど、正直私はチョコのようなタイプは苦手だ。私の場所へずかずかと入り込まれそうで。
 生徒会にはまだあのひとの姿はない。気温が高いと調子が出ないのはしょうがないけれど、私ははやくあの人に会いたい。
 また会えたら、今度は――
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