モノクロガールズカレイドスコープ ? サイドストーリー
エピソード1
お昼休み、ランチタイム。クラスメイト達は気の合う子と机をくっつけて食事と談笑にふけっている。もちろんわたしも同じくだ。けども、そうじゃない子もいる。
「いいよ、無理しない」
まただ、また言ってる。
わたしは反射的に声のした方を向く。
そこにいるのは同じ制服を着たクラスメイト、同じ時期に入学してきた同級生。
名前は『三島ミサキ』さん。その他のプロフィールは自己紹介の時の声が小さすぎて聞こえなかった。極端に人見知りなのか、内気なのか、コミュ障なのか。とにかく謎の多い人なのだ。
別にわたしだって、ただおとなしくて口数が少ないくらいで人様を「謎の人」呼ばわりはしない。そこにはちゃんと理由がある。
彼女は入学してから一ヶ月が過ぎた現在も、どこのグループにも属していない。群れを作る必要はないと考えているのかもしれないし、単にひとりが好きなのかもしれない。そういう人もいるだろう。
だが、彼女は明らかに「構って欲しい」、「孤独は嫌いだ」オーラを出している。オーラとかそういう言葉が嫌いならば、ただ「雰囲気」とでもいえばいいのか。とにかくそういう気のようなものを感じるのだ。表情では寂しいといっているのに、誰にも声をかけることもない。ひたすら受け身だ。内気が過ぎる。おとなしいの次元ではないんじゃないか。
更にいえば、いや、これが決定的なのだが、三島さんはしばしば喋っている。独り言というか、誰かと話しているような口調でしゃべり倒しているのである。その様は、はっきり言って「どこがコミュ障? 人見知り?」レベルなのだ。傍から見れば親しい相手と脳内で会話をしているようにしか見えない。
これが彼女が長らくひとりでいる理由だ。
わたしたちクラスメイトだって、積極的に三島さんをハブっているわけではない。彼女の方がコミュニュケーションを拒絶している、もしくは自己完結しているから、それに合わせているだけなのだ。
それに、正直に言えば独り言を超えたレベルの会話をひとりでやっている女子高生というのは不気味である。なにか危ない薬でもやっているのかと、他人事ながら心配になるし、あまり関わり合いになりたくないのだ。
「――、なにぼんやりしてんの?」
「あ、――。ちょっと三島さんのこと考えてて……」
「三島さんね。彼女、全然打ち解けないよね。今度声かけてみようかな」
「やめときなよ。ずっと誰かとおしゃべりしてるし……なんか怖いじゃん?」
「悪い人には見えないけどなぁ」
「――は学級委員だからって真面目すぎ! お人好しなのよ」
入学後、間もなく親しくなったショートカットの彼女は、案の定学級委員を押し付けられていた。いかにも優し気な顔立ちと、人懐っこい笑顔はいかにも向いている。でも、だからといって、クラスの面倒ごとを押し付けていい理由にはならない。かといって、わたしがどうにかしようとは思わないけど。
「でもさぁ、三島さんがずっとひとりでお昼してるの見てると……良心の呵責っていうか、かわいそうっていうか」
「それって親切で言ってんの?」
「まさか! あとでわたしが先生にネチネチ小言とか言われたくないし」
「そうだよね」
良心が痛むのは、彼女が学級委員としてちゃんとやっていなきゃいけないと思うからだ。わたしたちだって、まだ入学したての新入生。まだまだ至らないところは多い。それをどうにかしていくのが学校じゃない。
「それに、ずっとぼっちの子がいると内申に響くんじゃないかって思って」
「あんたも結構きついね」
「現実的だっていってよ!」
そう、わたしたちはこれでいい。
だって、とりたてて特筆すべき特徴もない一般人なんだから。
物語の主役には、もっと、ずっと、相応しいひとがいるんだから。
『たとえば……そう、劇的な変化を望んでるひととか、ね?』
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